OTセキュリティ:重要インフラを守るための基礎知識
セキュリティを高めたい
「OT」ってよく聞くんですけど、普通のコンピュータのセキュリティと何が違うんですか?
情報セキュリティ専門家
いい質問ですね!「OT」は、工場の機械や電気などの設備を動かすシステムのことです。普通のコンピュータシステムと違って、止まったりすると大きな事故に繋がることもあるので、セキュリティ対策も違ってきます。
セキュリティを高めたい
なるほど!確かに工場が止まったら大変なことになりますよね。具体的にはどんな違いがあるんですか?
情報セキュリティ専門家
例えば、セキュリティ対策のためにシステムを最新の状態に保つことは重要ですが、OTの場合は常に動かし続ける必要があるので、アップデートが難しかったりします。また、攻撃を受けにくかった工場も、インターネットにつながるようになってきたことで、攻撃が増えてきているという課題もあります。
OTとは。
「情報セキュリティで出てくる『OT』って何かご存知ですか? OTは、Operational Technologyの略で、工場などの物理的な設備と情報をやり取りしたり、設備そのものを動かしたりするシステムや機械全体を指します。日本語では、運用技術や制御技術と訳されることが多いですね。
OTシステムや機器は、機械や作業工程、何か起きた出来事を監視したり制御したりすることで、物理的な設備を動かしています。具体的な例としては、工場の制御システムや物流システム、温度や湿度などを監視するシステム、ビルの管理システム、火災報知器やスプリンクラーなどの防火システム、入退室管理システムなどが挙げられます。
OTは、実際にモノを動かす設備と直結している点や、電気、ガス、水道などの社会にとって重要なインフラを扱っている点で、パソコンやサーバーなどを扱う一般的なITとは違うセキュリティ対策が必要になります。
例えば、OTの中には、操業を一瞬たりとも止められない設備も含まれており、システムを安全に使い続けることがセキュリティ対策として最も重要になります。また、ITと違って、ソフトウェアや機器の更新が難しい場合もあります。
OTを狙ったサイバー攻撃としては、Stuxnetやウクライナの電力網への攻撃など、国家レベルの高度な攻撃が数多く確認されています。
一方、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTや遠隔からの保守・点検、インターネットに接続されたサービスの普及により、これまで標的になりにくかった工場やプラント、エネルギー設備なども、身代金要求型のウイルスなどのサイバー犯罪に巻き込まれるケースが増加しています。
インターネット接続がより広範囲に拡大する5Gの普及により、OTのセキュリティ対策は今後ますます重要になってくると考えられています。
OTのセキュリティ対策を示した指針や基準としては、経済産業省が公開している『工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインVer1.0』のほか、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が発行するNIST SP 800-82 Guide to Operational Technology Security、国際オートメーション学会(ISA)が策定するISA/IEC 62443などがあります。また、アメリカの電力会社が定めたセキュリティ基準としてNERC CIPがあります。
OTとは
– OTとはOT(運用技術)とは、発電所や工場、ビルといった実際の設備の稼働を管理するためのシステムや機械のことを指します。私たちの暮らしを支える電気やガス、水道、交通といった社会の基盤となる設備の多くは、このOTによって制御されています。OTは、私たちの生活に欠かせない様々なものを動かしています。例えば、工場の製造ラインを思い浮かべてみてください。製品を効率的に作るために、機械の動作や材料の搬送などを自動で制御するシステムが必要です。また、広範囲に電気を供給する電力網では、電圧や周波数を常に監視し、安定供給を維持する必要があります。さらに、ビルやオフィスでは、快適な室温を保つために空調システムが稼働しています。これらのシステムは、すべてOTによって制御されているのです。OTの特徴は、その動作の確実性と安定性に重きを置いている点にあります。例えば、工場の製造ラインでは、システムの誤動作は製品の品質低下や生産の遅延に繋がります。また、電力網のシステム障害は、広範囲にわたる停電を引き起こす可能性も孕んでいます。そのため、OTは高い信頼性が求められるシステムと言えるでしょう。
項目 | 説明 |
---|---|
定義 | 発電所、工場、ビルなどの設備の稼働を管理するシステムや機械 |
役割 | 電気、ガス、水道、交通など、社会基盤となる設備の制御 |
例 | 工場の製造ライン、電力網、ビルの空調システム |
特徴 | 動作の確実性と安定性に重点 |
重要性 | システムの誤動作は、品質低下、生産遅延、停電など、重大な影響を及ぼす可能性 |
OTとITの違い
– OTとITの違い従来の情報セキュリティ対策は、パソコンやサーバー、ネットワークといった情報セキュリティ技術(IT)を対象としていました。しかし、工場やプラントなどで稼働する制御システム(OT)は、ITとは異なる特性を持つため、そのままでは適用できません。OTにも情報セキュリティ対策は必要ですが、ITとは異なる対策が必要となるのです。では、OTとITでは何が違うのでしょうか。最も大きな違いは、重視する点にあります。ITは情報の機密性、完全性、可用性を重視する一方、OTはシステムの可用性と安全性を最優先します。例えば、Webサイトの個人情報が漏洩した場合、ITでは情報漏洩の影響範囲の特定や、再発防止策を講じることが重要となります。一方で、工場の制御システムがサイバー攻撃を受けたとします。OTでは、まずシステムを安全に停止させ、被害を最小限に抑えることが最優先されます。情報の機密性よりも、人命や環境への影響を最小限に抑えることが重要となるからです。また、OTは長期間にわたって使用される専用システムが多く、ITのように頻繁にシステム更新を行うことが難しいという側面もあります。これは、システムの安定稼働を重視するOTの特性上、更新によるシステムへの影響を最小限に抑える必要があるためです。一方で、ITは常に最新のセキュリティ対策を施す必要があり、頻繁なシステム更新が求められます。このように、OTとITではセキュリティ対策の考え方が大きく異なるため、OTには専用のセキュリティ対策が必要となるのです。
項目 | IT | OT |
---|---|---|
重視する点 | 情報の機密性、完全性、可用性 | システムの可用性と安全性 |
インシデント発生時の対応 | 情報漏洩の影響範囲の特定、再発防止策 | システムを安全に停止、被害の最小限化 |
システム更新 | 頻繁に更新、最新セキュリティ対策の適用 | 長期間使用、更新による影響を最小限に抑制 |
OTセキュリティの重要性
– OTセキュリティの重要性現代社会において、電力、ガス、水道、交通といった社会インフラを支えるOT(制御システム)は、私たちの生活に欠かせないものです。しかし、これらのシステムがサイバー攻撃を受けると、私たちの生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。例えば、物理的な設備の停止や損壊、生産ラインの操業停止、サービスの提供停止など、経済的な損失をもたらす可能性があります。さらに、環境汚染や人命に関わる事故に発展する可能性もあり、その脅威は計り知れません。
近年、OTシステムを狙ったサイバー攻撃事例は増加の一途をたどっており、その手口も巧妙化しています。2010年には、イランの核施設を標的とした「Stuxnet」と呼ばれるマルウェアによる攻撃が発生し、遠心分離器の破壊に成功したとされています。また、2015年と2016年には、ウクライナの電力会社がサイバー攻撃を受け、大規模な停電が発生しました。これらの事例は、OTセキュリティの脆弱性を世界に知らしめ、その重要性を改めて認識させることとなりました。
OTシステムは、従来、外部ネットワークから隔離された環境で運用されてきましたが、近年ではIoT技術の導入などにより、ITシステムとの連携が進み、サイバー攻撃の脅威にさらされる機会が増加しています。そのため、OTシステムのセキュリティ対策は、もはや待ったなしの状況となっています。
OTセキュリティの重要性 | 詳細 |
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現代社会への影響 | 電力、ガス、水道、交通といった社会インフラを支えるOTは、私たちの生活に不可欠なもの |
サイバー攻撃のリスク |
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近年のサイバー攻撃事例 |
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OTシステムのセキュリティ対策の必要性 | IoT技術の導入などにより、ITシステムとの連携が進み、サイバー攻撃の脅威にさらされる機会が増加 |
OTセキュリティの脅威
– OTセキュリティの脅威工場やプラントなどで稼働する制御システム(OTシステム)は、これまで外部ネットワークと隔離されていることが多く、セキュリティ対策が十分ではありませんでした。しかし、近年では業務効率化やコスト削減のために、OTシステムを企業ネットワークやインターネットに接続するケースが増加しています。それに伴い、OTシステムを狙ったサイバー攻撃のリスクが高まっています。攻撃者は、インターネットに接続された脆弱性のある機器を探し出し、そこからOTシステムに侵入を試みます。侵入に成功した場合、機器の制御を奪ったり、データを盗み出したりといった深刻な被害が発生する可能性があります。OTシステムに対する脅威は、外部からのサイバー攻撃だけではありません。内部関係者による不正アクセスや操作ミス、システムの誤動作なども、大きな脅威となります。特に、権限を持つ従業員が故意または過失によってシステムにアクセスし、機密情報を漏洩させたり、システムに障害を与えてしまうケースは後を絶ちません。さらに、近年ではIoT機器の普及とリモートワークの拡大に伴い、新たなセキュリティリスクも生まれています。セキュリティ対策が不十分なIoT機器がネットワークに接続されることで、攻撃者がOTシステムへの侵入経路として悪用する可能性があります。また、リモートワーク環境におけるセキュリティ対策の不備が、OTシステムへの不正アクセスを招く可能性もあります。このように、OTシステムを取り巻く脅威は複雑化・多様化しており、従来型のセキュリティ対策だけでは対応が困難になりつつあります。OTシステムの安全を守るためには、外部からの攻撃だけでなく、内部関係者による脅威や新たな技術に伴うリスクにも対応した、多層的なセキュリティ対策を講じる必要があります。
脅威 | 説明 |
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外部からのサイバー攻撃 | インターネットに接続された脆弱性のある機器を悪用し、機器の制御奪取やデータの盗出を試みる |
内部関係者による脅威 | 権限を持つ従業員による機密情報漏洩やシステム障害を引き起こす可能性
|
システムの誤動作 | システムの誤動作による障害発生の可能性 |
IoT機器の普及 | セキュリティ対策が不十分なIoT機器が、OTシステムへの侵入経路として悪用される可能性 |
リモートワークの拡大 | リモートワーク環境におけるセキュリティ対策の不備が、OTシステムへの不正アクセスを招く可能性 |
OTセキュリティ対策
– OTセキュリティ対策
工場やプラントなどで稼働する制御システム(OT)は、これまで安全性を重視した独自の進化を遂げてきました。しかし、近年はITシステムとの接続が進むとともに、サイバー攻撃の脅威にさらされる機会も増加しています。OTシステムは、電力、ガス、水道などの社会インフラや、製造業の生産ラインなど、私たちの生活や経済活動に欠かせない重要な役割を担っているため、セキュリティ対策の強化は喫緊の課題となっています。
OTセキュリティ対策の基本的な考え方は、ITシステムと同様に、多層防御です。これは、一か所の防御が突破されても、次の防御層で攻撃を食い止めることで、被害を最小限に抑えるという考え方です。
具体的には、まず、OTネットワークを外部のネットワークから切り離すことが重要です。これは、インターネットからの不正アクセスや、マルウェアの侵入を防ぐための基本的な対策となります。さらに、OTネットワークとITネットワークの境界には、ファイアウォールを設置し、通信の内容をチェックすることで、不正な通信を遮断します。
また、侵入検知システムを導入し、ネットワーク上の不審な活動を監視することも重要です。もし、不正アクセスやマルウェアの侵入を検知した場合には、すぐに対応できるように、あらかじめ対応手順を策定しておく必要があります。
さらに、アクセス制御を強化し、許可されたユーザーのみがOTシステムにアクセスできるようにすることも重要です。従業員に対しては、セキュリティ意識向上のための教育を定期的に実施し、パスワードの管理や、不審なメールの取り扱いなど、基本的なセキュリティ対策を徹底する必要があります。
OTシステムのセキュリティ対策は、これらの対策を組み合わせることで、より効果を発揮します。OTシステムのセキュリティ対策は、企業の競争力や、社会全体の安全を守る上でも重要です。
対策 | 説明 |
---|---|
ネットワークの分離 | OTネットワークを外部ネットワークから切り離し、インターネットからの不正アクセスやマルウェアの侵入を防ぐ。 |
ファイアウォール | OTネットワークとITネットワークの境界に設置し、通信内容をチェックして不正な通信を遮断する。 |
侵入検知システム | ネットワーク上の不審な活動を監視し、不正アクセスやマルウェアの侵入を検知する。 |
アクセス制御の強化 | 許可されたユーザーのみがOTシステムにアクセスできるようにする。 |
セキュリティ意識向上教育 | 従業員に対して、パスワードの管理や不審なメールの取り扱いなどのセキュリティ対策を徹底するための教育を定期的に実施する。 |
OTセキュリティのガイドライン
昨今、あらゆるものがインターネットに接続される時代となり、製造現場やプラントなどの重要インフラにおいても、従来の制御システムに加え、IT技術を活用したシステムが導入されています。これにより、生産性向上や効率化といった恩恵がもたらされる一方で、サイバー攻撃の脅威にさらされるリスクも増大しています。
このような背景から、OTシステムの安全性を確保するための対策が急務となっており、様々なガイドラインや標準が策定されています。
日本では、経済産業省が中心となり、『工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインVer1.0』を公開しています。このガイドラインでは、OTシステムのセキュリティ対策の基本的な考え方や、具体的な対策内容がまとめられており、事業者はこのガイドラインを参考に、自社のシステムに最適なセキュリティ対策を実施することが求められています。
また、国際的な標準規格としては、米国国立標準技術研究所(NIST)が策定した『NIST SP 800-82 Guide to Operational Technology Security』や、国際電気標準会議(IEC)が策定した『IEC 62443』などが広く参照されています。これらの標準規格は、OTシステムのセキュリティ対策に関するベストプラクティスを集約したものであり、国際的に事業を展開する企業にとっては、これらの規格への準拠が重要となります。
背景 | 対策の必要性 | 主なガイドライン・標準規格 |
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– あらゆるものがインターネットに接続される時代 – 製造現場やプラントなどの重要インフラにおいてもIT技術を活用したシステムが導入 |
– サイバー攻撃の脅威にさらされるリスクの増大 – OTシステムの安全性を確保するための対策が急務 |
– 工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインVer1.0 (経済産業省) – NIST SP 800-82 Guide to Operational Technology Security (NIST) – IEC 62443 (IEC) |